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📖 連載 かしのき事務所の事件簿 (1)-1

相続登記をしないとどうなる?
放置した空き家の相続人が「60人超」になった実話

公開: 2026-07-29 | 監修: 柏原昌之 (司法書士/花の丘相続遺言サポート 代表)

結論: 相続登記をしないまま放置すると、① 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料 の対象になり得ます (2024年4月から義務化・過去の相続も対象)。② 売る・貸す・壊すができません。そして③ 時間が経つほど 相続人が雪だるま式に増えて、話し合いそのものができなくなります。本当に怖いのは③です。

ある日、市役所から一通の手紙が届きます。開くと、会ったこともない親戚の、行ったこともない町の空き家について——「あなたは相続人です!」。そんな手紙を受け取った人が、この話には40人以上います。これは、当事務所が実際に受けている相談のお話です (守秘義務のため、人数や地域などの属性を変えて再構成しています)。

1. 実話: 空き家を放置したら、相続人が60人を超えた

※ 実際の相談をもとに再構成した事例です (年代・地域・人数などの属性を変えています)。

発端——倒壊寸前の空き家

ある町に、今にも倒れそうな古い空き家がありました。屋根は傾き、道路にも近い。危険だと判断した市は、所有者に対応を求めようとしました。

ところが登記簿を見ると、所有者は とうの昔に亡くなっていました。登記は何十年も前のまま。誰も相続の手続きをしていなかったのです。

そこで市は、所有者の「相続人」を探すことにしました。持ち主が亡くなっていれば、その権利は相続人に引き継がれているからです。

調査——相続人は「40人以上」

相続人の調査は、亡くなった方の戸籍を出生までさかのぼり、子・孫・兄弟姉妹・甥姪…と枝をたどっていく地道な作業です。市から依頼を受けた弁護士が調査した結果、判明した相続人は 40人以上

登記が止まっていた年月のあいだに相続人自身も次々に亡くなり、そのたびに権利が下の世代へ、別の家系へと枝分かれしていました (これを 数次相続 といいます)。放置の年月は、そのまま相続人の人数になっていた のです。

手紙——「あなたは相続人です!」

市は、判明した相続人の全員に手紙を送りました。趣旨はこうです。

「あなたは相続人です!現在相続財産である不動産が危険な状態で放置されており、対応が必要です。要らないのであれば、相続放棄の手続きをしてください」

受け取った側の立場で想像してみてください。会ったこともない親戚の、見たこともない空き家。それが突然「あなたの相続財産です」と通知されてくるのです。多くの人にとって、寝耳に水だったはずです。

決断——手を挙げた、ひとりの相続人

そのなかに、ひとりだけ動いた人がいました。

「私が代表して手続きをします。この家をきちんと処分できるよう、頑張ります!」

その方が当事務所 (監修者の事務所) に相談に見え、この案件が始まりました。相続手続きには大きく2つの段階があります。① 戸籍を集めて相続人を確定する段階 と、② 相続人のあいだで合意をつくる段階 です。①は市の調査で終わっている——はずでした。

落とし穴——戸籍の集め直し

ここで思わぬ壁にぶつかります。市の調査で集められた戸籍は、行政の目的のために収集されたもの。個人情報を目的外に使うことはできず、私人の相続手続きに流用することはできません。

つまり、相続人の調査はゼロからやり直し。40人以上の相続人をたどる戸籍の束を、もう一度集め直すことになりました。

さらに増えて——最終的に「60人超」

集め直してみると、当初の調査に含まれていなかった相続人が新たに見つかりました。専門家が調べても結果に食い違いが出る——それほど、大人数の相続人調査は難しいのです。

最終的に、相続人は 60人を超えました。着手から数年。手続きは、今も続いています。

📖 この話には、続きがあります

60人を超える相続人の「合意」を、どうやってつくっていくのか——この続きは 「かしのき事務所の事件簿 (1)-2」 で (準備中)。

2. この実話が教えてくれること

① 放置の年月 = 相続人の人数

登記しないうちに相続人が亡くなるたび、権利者は ねずみ算式に増えます。この実話では60人超になりました。

② ある日突然、当事者になる

自分が放置した覚えがなくても、親戚の放置不動産の相続人として手紙が届く ことがあります。

③ 解決は年単位

人数が増えてからでは、戸籍集めも話し合いも桁違いに大変になります。動くなら早いほどいい のです。

そして2024年4月からは、相続登記は「やったほうがいいこと」ではなく 法律上の義務 になりました。以下、制度面を整理します。

3. 罰則はある? (過料)

正当な理由なく相続登記の義務に違反すると、10万円以下の過料 の対象になるとされています。

過料は「刑罰」ではありません

過料は罰金 (刑罰) とは異なる行政上のペナルティで、前科にはなりません。ただし、放置してよい理由にはなりません。

「正当な理由」が認められる場合も

相続人が極めて多数で、戸籍収集や把握に時間がかかる場合など——まさにこの実話のようなケースです。何が正当な理由にあたるかは個別判断のため、迷ったら早めに専門家へご相談ください。

⚠️ 過料だけではない「実害」

実話のとおり、放置の実害は過料にとどまりません。売れない・貸せない・壊せない/戸籍集めが大変になる (→ 戸籍の集め方)/会ったこともない相続人同士で遺産分割協議が必要になる (→ 遺産分割協議書の書き方)。固定資産税など税金の負担が生じる場合もありますが、課税関係は個別事情によるため 税理士にご確認ください

4. いつまでに登記すればいい?

2024年4月1日から、相続登記は義務になりました。ケース別の目安です。

ケース 期限の目安 補足
2024年4月以降に相続を知った 取得を知った日から 3年以内 原則の期限です
施行前 (昔) の相続 施行日から3年以内 が目安 過去の相続も対象 です
遺産分割がまとまった 成立日から 3年以内 その内容の登記が必要とされます

「うちは昔の相続だから関係ない」は誤解です。具体的な期限は事案により異なるため、法務局・司法書士に確認するのが安全です。

5. すぐに登記できないとき: 相続人申告登記

遺産分割がまとまらないなど、すぐに相続登記ができない場合のために、相続人申告登記 という制度があります。自分が相続人であることを法務局に申し出ることで、当面の申請義務を果たしたものとして扱われる とされています。

⚠️ あくまで「つなぎ」です

相続人申告登記は 正式な相続登記ではありません。遺産分割がまとまったら、改めてその内容の登記が必要です。

この実話のように相続人が多数で調査に時間がかかるケースでも、まず自分の分を申し出ておく、という選択肢になります。

6. 今からどう動けばいい?

実話の教訓は、「早いほど、少ない人数で済む」。手順は ① 現状確認 → ② 相続人の確定 → ③ 話し合い (または申告登記でつなぐ) → ④ 登記申請です (下の 4 ステップで詳しく)。

出発点は「相続人の確定」

まず戸籍で相続人を確定します。→ 相続人は誰か

人数が多い・関係が複雑なときは「図」に

相続関係説明図法定相続情報一覧図 に整理すると、抜け漏れを防ぎ、登記手続きもスムーズです。

費用について

登記申請には登録免許税や書類取得の実費がかかります。金額・免税措置の有無は事案や時期により異なるため、法務局・司法書士にご確認ください。

🌿 まず「相続人が誰か」を見える化

相続人が何人いるのか、図にしてみる

この実話の第一歩も、「相続人が誰で、何人いるのか」の見える化でした。「みんなの相関図」なら、名前 / 生年月日 / 続柄を入れていくだけで 相続関係の図 を自動で描けます。登録不要の体験デモで、まず試せます。

※ 登録時のカード入力なし。ツールはあくまで家族関係の図の作成にお使いいただけます。相続人の確定や法的な判断を行うものではありません。

7. 放置している相続登記を進める 4 ステップ

はじめから終わりまでの、大まかな流れです。

1 不動産と登記の現状を確認する

相続した (心当たりのある) 土地・建物の 登記事項証明書 を取り、名義が誰のままかを確認します。固定資産税の通知や権利証も手がかりになります。

2 戸籍を集めて相続人を全員確定する

出生から死亡までの戸籍をたどって相続人を確定します。相続関係説明図 にすると漏れにくくなります。人数が多い場合は早めに専門家へ 相談してください。

3 遺産分割をまとめる、または相続人申告登記でつなぐ

話し合いがまとまれば 遺産分割協議書 を作成します。時間がかかりそうなら、相続人申告登記 で当面の申請義務を果たしておく方法もあります (つなぎのため、遺産分割後に改めて登記が必要です)。

4 法務局に相続登記を申請する

必要書類をそろえて法務局に申請します。期限 (原則 3 年) に注意し、判断に迷ったら司法書士へ相談してください。

あわせて読みたい

「放置しない」ための次の一歩になる記事です。

相続登記の放置 — よくあるご質問

Q.相続登記をしないとどうなりますか? +

正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得るほか、不動産を売却・処分できず、時間の経過で相続人が増えて手続きが難しくなります。

Q.相続登記をしない場合の罰則はいくらですか? +

正当な理由なく申請義務に違反した場合、10万円以下の過料の対象になるとされています。過料は刑罰ではなく行政上のペナルティです。

Q.相続登記はいつまでにすればいいですか? +

不動産の取得を知った日から原則3年以内とされています。遺産分割がまとまった場合は、成立日から3年以内にその登記も必要とされます。

Q.何十年も前の相続も義務化の対象ですか? +

対象とされています。施行日 (2024年4月1日) より前の相続は、施行日から3年以内が目安とされます。詳しくは法務局・司法書士にご確認ください。

Q.登記しないまま相続人が亡くなったらどうなりますか? +

数次相続が発生し、亡くなった相続人の相続人が新たに加わります。世代をまたぐほど人数が増え、話し合いが難しくなります。

Q.相続登記をしていない不動産は売れますか? +

亡くなった方の名義のままでは売却できません。売却するには、前提として相続登記を済ませる必要があります。

Q.放置している間の固定資産税は誰が払うのですか? +

相続人に納税通知が届く場合がありますが、課税関係は個別の事情により異なります。税金については税理士にご確認ください。

Q.相続人申告登記とは何ですか? +

すぐに相続登記ができないとき、自分が相続人であることを法務局に申し出ることで、当面の申請義務を果たしたものとして扱われる制度です。正式な相続登記ではないため、遺産分割後に改めて登記が必要です。

Q.突然、遠い親戚の不動産の相続の手紙が届いたらどうすればいいですか? +

放置しないことが大切です。相続したくない場合は相続放棄という選択肢もありますが、期間の制限があるため早めに専門家へご相談ください。

Q.相続登記は自分でできますか?費用はいくらかかりますか? +

ご自身での申請も可能です。登録免許税や戸籍取得の実費がかかり、金額は事案により異なります。相続人が多い場合や戸籍が複雑な場合は司法書士への依頼をご検討ください。

✨ 放置しないための、最初の一歩

相続人が何人いるのか、図にしてみる

相続登記の出発点は「相続人が誰か」の確定です。まず全体を図に整理すると、次の一歩が見えてきます。「みんなの相関図」なら、名前 / 生年月日 / 続柄を入れていくだけで自動描画。
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相続人の確定は法的な判断を伴うため、ツールはあくまで家族関係の図の作成にお使いいただけます。

この記事の監修者

柏原 昌之 (かしはら まさゆき)

司法書士。司法書士法人かしのき事務所 代表・花の丘相続遺言サポート 代表 (埼玉県さいたま市)。相続放棄・相続登記・遺言をはじめとする相続手続きを多数取り扱う。「専門家に頼む前に、自分でできるところまでやってみたい」という方を応援するため、「みんなの相関図」(運営: かしのき研究所) の監修を務める。

本文の実話のとおり、相続登記の放置は 相続人の人数 というかたちで確実に重くなっていきます。「うちも登記していないかも」と思い当たる方は、まず登記の現状と相続人の確認から。判断に困るときは — 無料 Zoom 相続相談 (初回 90 分) で、早めにご相談ください。

免責事項

本記事は 2026 年 7 月時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。本文中の事例は、実際の相談をもとに年代・地域・人数などの属性を変えて再構成したものです。相続登記の期限・過料・相続人申告登記の取扱いは個別の事情によって異なるため、法務局または司法書士にご確認ください。登録免許税など費用の金額・免税措置は事案・時期により異なります。固定資産税など税金の取扱いは司法書士の専門外のため、税理士にご確認ください。「みんなの相関図」は家族関係の図を作成するツールであり、相続人の確定や法的な判断、登記申請を行うものではありません。