🏠 みんなの相関図 (一般の方向け) 遺産分割協議で連絡が取れないとき

📄 相続手続きガイド

📖 連載 かしのき事務所の事件簿(1)-3

遺産分割協議で連絡が取れない相続人がいたら?
返事が来ない理由は「恨み」ではありませんでした

公開: 2026-08-01 | 監修: 柏原昌之 (司法書士/花の丘相続遺言サポート 代表)

結論: 遺産分割協議は 相続人全員の合意 が必要です。ひとりでも欠けると成立しません。それでも、手紙を送って 返事が来ない相続人 は実際に出てきます。

やることは 「連絡を取り続け、遺産分割協議に参加するか・相続放棄をするかを、ご本人に選んでいただく」。それだけです。ただし、その「連絡を取る」がいちばん時間がかかります。

なお、司法書士・行政書士は相続人の代理人にはなれません。私たちができるのは、事情をお伝えして選択肢をご案内する連絡・調整までです。

前回、6人がかりで半年、相続人を確定させたところまでお話ししました。ですが、これで終わりではありません。相続手続きの後半——全員の合意をつくる段階が、まだそっくり残っていたのです。

1. 実話の続き: 手紙を出しても、返事は半分しか返ってこない

※ 実際の相談をもとに再構成した事例です (年代・地域・人数などの属性を変えています)。

前回までのあらすじ

倒壊寸前の空き家。所有者はとうの昔に他界。長寿ゆえに家督相続の境目を越えていたため相続人は枝分かれし、最終的に60人超。司法書士4人・行政書士2人で枝ごとに分担し、半年で相続人を確定した。→ (1)-1(1)-2

半年と、2年

実は、この案件で市から依頼を受けた弁護士は、同じ相続人調査に 1年半から2年 をかけたと聞いています。

私たちは、およそ半年 で調べ終えました。腕の差ではありません。6人で枝を分担できたから です。ひとりで60人分の戸籍を追えば、やはり年単位になったはずです。

ただし——半年かけて終わったのは、相続手続きの前半だけ でした。

相続手続きには、2つの段階がある

相続人を確定する(戸籍を集める)
相続人全員で合意をつくる(遺産分割協議)

終わったのは①。ここからが②です。そして②のほうが、たいてい長くかかります。

幸運だったこと——市の手紙が効いていた

ひとつ、ありがたい状況がありました。市が相続人全員に送っていた手紙です。「この不動産が危険な状態で放置されています。要らないのであれば相続放棄の手続きを」——あの手紙です。

あの手紙を受けて、およそ30人がすでに相続放棄をしてくれていました。つまり実質、放棄していない残りの方々だけを相手にすればよかった のです。

ただし「放棄していない=財産がほしい」ではない

ここが誤解されやすいところです。放棄していない人が、みんな「財産がほしい」と思っているわけではありません。

手紙を送っても 何も連絡をくれない人 がいます。もちろん「ほしい」という人もいます。忙しくて、たまたま封を開けていない だけかもしれません。

とにかく、いろいろな事情で連絡が来ない。それを 一つひとつ潰していく ことになります。

もう一度、手紙を出すところから

「私が代表して手続きをします」と手を挙げてくださった方からご依頼を受け、私たちは 何も連絡をくださらなかった方々へ、あらためて手紙を送る ところから始めました。

結果——さらに半数の方から、相続放棄の確認が取れました

そして 残りの半数は、相変わらず連絡がありません

そして現地調査へ

手紙では動かない。ならば、次は 現地に足を運ぶ しかありません。ここからは現地調査となりました。

📖 この話には、続きがあります

訪ねていった先で、何が待っていたのか——この続きは 「かしのき事務所の事件簿(1)-4」 で (準備中)。

2. 返事が来ない、本当の理由

この事案でいちばん意外だったのは、「恨みがあって協力したくない」という方は、ひとりもいなかった ことです。

代わりに続出したのが、この2つでした。

「とにかく面倒」

見ず知らずの親戚の、遠い土地の不動産。書類を書くのも、印鑑を押すのも、億劫だという感覚。

「家族の介護で、それどころではなかった」

目の前の生活で手一杯。手紙を開く余裕がない。

相続がこじれる理由は「感情のもつれ」だと思われがちです。しかし実際には、悪意ではなく、生活に埋もれて動けない——それが、返事が来ない相続人の多くの姿です。

だからこそ、責めるのではなく、根気よく連絡を取り続ける ことが仕事になります。どちらを選ぶかは、あくまで ご本人の判断 です。

3. 連絡が取れないときの進め方

段階 やること 実話ではどうだったか
① 戸籍で住所をたどる 戸籍の附票などで現住所を調べる 相続人の確定と同時に実施
② 手紙を送る 事情と選択肢 (協議に参加 or 相続放棄) を伝える 市の手紙で約30人が放棄済み
③ もう一度手紙を送る 反応がない方へ、あらためて さらに半数から放棄の確認が取れた
④ 現地を訪ねる 住所地に足を運んで状況を確認する 残り半数はここへ
⑤ それでも所在が分からないとき 家庭裁判所の手続き (不在者財産管理人の選任など) を検討

大切なのは 順番に、記録を残しながら進める こと。いきなり法的手続きに進むのではなく、まず連絡を尽くします。

4. ご本人に選んでいただくのは「2つに1つ」

連絡が取れた方にご案内するのは、結局この2つの選択肢です。どちらを選ぶかを決めるのは、ご本人です

① 遺産分割協議に参加する

協議書に署名し、実印を押して印鑑証明書を添えます。→ 遺産分割協議書の書き方

② 相続放棄をする

家庭裁判所での手続きになります。→ 相続放棄とは

⚠️ 相続放棄には期間の制限があります

「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」とされ、古い相続では起算点の判断が難しくなります。早めに専門家へご相談ください。

「面倒だから何もしない」がいちばん困ります。どちらかを選んでいただくだけで、手続きは前に進みます

5. やってはいけないこと

① 連絡が取れない人を除いて協議書を作る

遺産分割協議は 全員の合意が必要 です。欠けたまま作っても無効になります。

② 勝手に署名や押印を代行する

論外です。文書偽造にあたります。

③ 放置する

待っている間にも相続人が亡くなり、権利者はさらに増えます (→ 数次相続)。実話のように 動くなら早いほど人数が少なくて済みます

※ この章は同業の専門家向けの補足です

6.【士業の方へ】司法書士・行政書士にできること、できないこと

代理人にはなれません

司法書士・行政書士は、相続人間の交渉について 依頼者の代理人となることができません。私たちが行えるのは、あくまで 連絡・調整と書類作成 の範囲です。

やってはいけないこと

依頼者の利益のために、他の相続人へ 相続放棄をすすめる・持分を譲るよう働きかける といった行為は、弁護士法72条が禁じる非弁行為 にあたります。

弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

相続人間の利害調整は「一般の法律事件」にあたり得ます。「代理」だけでなく「和解」「仲裁」「周旋」も禁じられている 点に注意が必要です。

できること

事実関係と手続きの流れを中立に説明する/選択肢 (協議に参加する・相続放棄をする) を案内する/必要書類を用意する/連絡と日程の調整をする。判断はご本人に委ねる のが原則です。

依頼者から「代わりに交渉してほしい」と求められたら

その時点で私たちの業務範囲を超えます。弁護士へのご依頼をご案内する のが正しい対応です。

この線引きは、実務では毎回意識するところです。人数が多い事案ほど「早く終わらせたい」という気持ちが働きますが、中立を保つことが結局いちばん早い と感じています。

🌿 誰が参加し、誰が放棄したのか

相続関係を、図で把握する

人数が増えるほど、「誰が協議に参加し、誰が放棄したのか」の管理が難しくなります。「みんなの相関図」なら、名前 / 生年月日 / 続柄を入れていくだけで 相続関係の図 を自動で描けます。登録不要の体験デモで、まず試せます。

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7. 連絡が取れないときの 4 ステップ

1 戸籍と附票で現住所を調べる

相続人を確定したうえで、戸籍の附票 などから現在の住所をたどります。→ 戸籍の集め方

2 事情と選択肢を書いた手紙を送る

何が起きているか、参加と放棄のどちらを選べるかを、分かりやすく伝えます。送った記録を残します

3 反応がない方へ、あらためて連絡する

一度で諦めません。実際、二度目の手紙で半数の方から返事がありました。

4 現地を訪ね、必要に応じて家庭裁判所の手続きを検討する

住所地の状況を確認します。所在不明が確定する場合は 不在者財産管理人の選任 などを検討します。判断が難しいため司法書士へご相談ください。

あわせて読みたい

連絡が取れたあと、手続きを進めるための記事です。

連絡が取れない相続人 — よくあるご質問

Q.遺産分割協議で連絡が取れない相続人がいます。どうすればいいですか? +

まず戸籍の附票などで現住所を調べ、事情と選択肢を伝える手紙を送ります。反応がなければ再度連絡し、それでも取れない場合は現地確認や家庭裁判所の手続きを検討します。

Q.連絡が取れない人を除いて遺産分割協議書を作れますか? +

できません。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要で、ひとりでも欠けると成立しません。

Q.手紙を無視されたら、それ以上どうしようもないのですか? +

いいえ。二度目の連絡で反応が返ることは実際にあります。それでも所在が分からない場合は、家庭裁判所での手続きを検討します。

Q.返事をくれない相続人は、財産がほしいということですか? +

必ずしもそうではありません。「手続きが面倒」「介護などで余裕がない」という理由で動けていないだけのことが多くあります。

Q.相続人に何をお願いすることになりますか? +

遺産分割協議に参加していただくか、相続放棄をしていただくか、どちらかを選んでいただきます。なお司法書士・行政書士は相続人の代理人にはなれないため、私たちが行えるのは事情の説明と選択肢のご案内までです。交渉が必要な場合は弁護士へのご依頼をご案内します。

Q.相続放棄はいつでもできますか? +

期間の制限があります。自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内とされ、古い相続では起算点の判断が難しくなります。早めに専門家へご相談ください。

Q.相続人が何十人もいる場合、全員と連絡を取るのですか? +

原則として全員です。ただし相続放棄をした方は相続人ではなくなるため、協議の相手からは外れます。

Q.所在がまったく分からない相続人がいる場合は? +

家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるなどの方法があります。要件や手続きは事案によるため、司法書士にご相談ください。

Q.話し合いに応じてくれない相続人がいる場合は? +

家庭裁判所の遺産分割調停を利用する方法があります。まずは連絡を尽くしたうえで検討します。

Q.時間が経つとどうなりますか? +

待っている間に相続人が亡くなると、その相続人へ権利が移り、関係者がさらに増えます。動くなら早いほど人数が少なくて済みます。

✨ まずは全体像から

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この記事の監修者

柏原 昌之 (かしはら まさゆき)

司法書士。司法書士法人かしのき事務所 代表・花の丘相続遺言サポート 代表 (埼玉県さいたま市)。相続放棄・相続登記・遺言をはじめとする相続手続きを多数取り扱う。「専門家に頼む前に、自分でできるところまでやってみたい」という方を応援するため、「みんなの相関図」(運営: かしのき研究所) の監修を務める。

連絡が取れない相続人がいると、手続きはそこで止まります。ですが本文のとおり、返事が来ない理由の多くは悪意ではありません。順番に、記録を残しながら連絡を尽くすことが結局いちばんの近道です。判断に困るときは — 無料 Zoom 相続相談 (初回 90 分) で、早めにご相談ください。

免責事項

本記事は 2026 年 8 月時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。本文中の事例は、実際の相談をもとに年代・地域・人数などの属性を変えて再構成したものです。相続放棄の期間や家庭裁判所の手続きの要否は個別の事情によって異なるため、司法書士・家庭裁判所にご確認ください。税金の取扱いは司法書士の専門外のため、税理士にご確認ください。「みんなの相関図」は家族関係の図を作成するツールであり、相続人の確定や法的な判断、交渉の代理を行うものではありません。