🏠 みんなの相関図 (一般の方向け) 相続人の所在が分からないとき

📄 相続手続きガイド

📖 連載 かしのき事務所の事件簿(1)-4

相続人の所在が分からない・連絡が取れないときは?
「財産を受け取れますよ」と言われても、人は疑うのです

公開: 2026-08-03 | 監修: 柏原昌之 (司法書士/花の丘相続遺言サポート 代表)

結論: 手紙で連絡がつかないとき、次にできるのは 住所地を実際に訪ねること です。私たちは、残った相続人の全員分、現地に足を運びました。

ただし 日帰りが基本 です。探偵のように何日も張り込むことはできません。夕方に伺い、留守なら時間を空けてもう一度。それでも会えなければ、手紙を郵便受けに入れて帰ります。

そして意外なことに——「あなたは相続人です。財産を受け取れます」と伝えても、人は疑います。疑うのは、むしろ健全な反応です。

前回、二度目の手紙で半数の方から返事をいただき、残る半数とは、どうしても連絡がつかないところまでお話ししました。ここから先は、こちらから会いに行くしかありません。

1. 実話の続き: チャイムを鳴らしに行く

※ 実際の相談をもとに再構成した事例です (年代・地域・人数などの属性を変えています)。

前回までのあらすじ

倒壊寸前の空き家。相続人は60人超。二度の手紙で多くの方が相続放棄をしてくださったが、残る方々からは、何の連絡もない。→ (1)-1(1)-2(1)-3

どこまで行くかは、費用との相談になる

連絡をどうしてもくださらない方には、こちらから訪ねていくしかありません。ただし、これは 費用のかかる仕事 です。

相手が九州や北海道にお住まいだったら——正直なところ、そこまでやるかどうかの判断は難しい のです。交通費も日当も、最終的にはご依頼者の負担になります。

しかも、行ったところで確実に会えるとは限りません。探偵のように何度も張り込んで、出てきたところを捕まえる——そんなことはできません。1泊2泊と重ねれば、費用はさらに膨らみます。

ですから 日帰りが基本 です。

この事案では幸いなことに、いちばん遠い方でも 日帰りで往復できる範囲 に収まっていました。ならば行こう——枝ごとの担当で手分けして、順番に回ることになりました。

訪問のしかたには、型がある

夕方ごろに伺って、チャイムを鳴らす
② 出てこなければ 1〜2時間ほど空けて、帰宅していそうな時間にもう一度
③ それでも会えなければ 手紙を郵便受けに入れて、帰る

昼間に行っても、たいていは留守です。そして正直なところ、一度の訪問で会えることのほうが、むしろ少ないのです。

ひとりでは行けない

正直に申し上げます。ひとりで見知らぬお宅を訪ねるのは、こわい のです。

相手がどういう方かは、行ってみるまで分かりません。玄関が開いた瞬間に何が起きるか——さまざまな可能性が頭をよぎります。

ですから、私たちは2人組で伺いました。これは実務上の安全配慮でもあります。

「もう今日は無理だ」と帰りかけたとき

ある日の訪問。夕方に伺って空振り、時間を空けてもう一度伺って、また留守。

「今日はもう無理じゃないか」——そう言って引き上げようとした、そのときでした。

ご家族の介護で病院に行かれていた相続人の方が、ちょうど帰ってこられた のです。玄関先でご事情をお話しし、話が前に進みました。

あと5分早く帰っていたら、会えていません。

玄関口で怒鳴られながら

もちろん、すべてが穏やかに進むわけではありません。

玄関口で怒鳴られた こともあります。それでも粘って事情をご説明し、最後には「相続放棄をする」というお言葉をいただきました。

「では、こういう書類をお送りしますので、実印を捺印して送り返してください」——そうやって、また一人。

とにかく一つひとつ、根気よく、捺印をいただいていきました

📖 この話には、続きがあります

全員の意思が揃ったあと、あの空き家はどうなったのか——この続きは 「かしのき事務所の事件簿(1)-5」 で (準備中)。

2.「財産を受け取れますよ」と言われても、人は疑う

この仕事をしていて、いちばん考えさせられるのがここです。

「あなたは相続人です。借金を負う可能性があります」 と伝えれば、「嘘でしょう」「詐欺だろう」と疑われます。それは分かります。

ところが——「あなたは相続人です。財産を受け取れます」と伝えても、やはり疑われる のです。

得をする話であっても、見知らぬ相手からの連絡は疑われる。これが実際に起きていることです。

そして、疑った方は行動します。警察に相談する。弁護士のところへ行く。無料相談の窓口に駆け込む——。

実は、こうして照会してくださる方のほうが、話は早く進みます。相談を受けた警察や弁護士が調べれば、私たちが 司法書士会に登録した実在の事務所 であることはすぐ分かるからです。氏名も、事務所の所在地も、ホームページも公開されています。「身元は確かなようだから、一度話を聞いてみたら」——そう言っていただければ、そこから前に進みます。

逆に言えば——何の連絡もくださらない方は、その照会すらしていない ということでもあります。考えられるのは、ご高齢でそもそも郵便を見ていないか、忙しさのあまり開封もしていないか。

疑われることは、悪いことではありません。困るのは、疑いもせず、確かめもせず、何も動かないままになってしまうことです。

※ この章は、身に覚えのない相続の連絡を受け取った方向けです

3.【手紙が届いた方へ】その連絡が本物か、確かめる方法

ある日突然、知らない事務所から「あなたは相続人です」という手紙が届く。疑って当然です。そのうえで、本物かどうかは確かめられます。

① 差出人の資格と登録を確かめる

司法書士なら各都道府県の司法書士会、弁護士なら弁護士会に、登録があるか照会できます。当事務所であれば 埼玉司法書士会 です。

② 手紙に書かれた電話番号ではなく、自分で調べた番号にかける

これは詐欺対策の基本です。事務所名で検索し、公式サイトに載っている番号 を使ってください。

③ 警察・弁護士・自治体の無料相談に持ち込む

手紙を持って相談すれば、本物かどうかの見当はつけてもらえます。

⚠️ お金を振り込ませようとする連絡は疑ってください

相続手続きのご案内で、いきなり金銭の振込を求めることは通常ありません。求められた場合は、いったん立ち止まって専門家や警察にご相談ください。

そして、もし本物だった場合。やることは2つに1つ です。遺産分割協議に参加するか、相続放棄をするか。どちらを選ぶかは、あなたご自身が決めることです。放っておくのがいちばん困ります——手続きが止まり、他の相続人も先に進めません。

4. 所在が分からないときの進め方

段階 やること 実話ではどうだったか
① 戸籍の附票で住所を調べる 現在の住民票上の住所をたどる 相続人の確定と同時に実施
② 手紙を送る 事情と選択肢を伝える 市の手紙で約30人が放棄済み
③ もう一度手紙を送る 反応がない方へ、あらためて さらに半数から放棄の確認が取れた
④ 現地を訪ねる 夕方に訪問 → 時間を空けて再訪 → 不在なら郵便受けに手紙 残った方の全員分、実際に伺った
⑤ 住所地にお住まいでないとき 現地で状況を確認したうえで、次の手を検討
⑥ それでも所在が分からないとき 家庭裁判所へ 不在者財産管理人 の選任を申し立てるなどを検討

大切なのは 順番に、記録を残しながら進める ことです。いつ・どこへ・何を送り、いつ訪問したか。この記録が、後の手続きで意味を持ちます。

5. やってはいけないこと

① 所在が分からない人を除いて協議書を作る

遺産分割協議は 相続人全員の合意 が必要です。欠けたまま作っても無効です。→ 遺産分割協議書の書き方

② 強引に押しかける・繰り返し訪問する

連絡を尽くすことと、相手を追い詰めることは違います。節度を欠けば、かえって協力を得られなくなります。

③ 放置する

待っている間にも相続人が亡くなり、権利者はさらに増えます (→ 数次相続)。動くなら早いほど、相手にする人数は少なくて済みます

※ この章は同業の専門家向けの補足です

6.【士業の方へ】現地調査の実務

費用の説明を先にする

現地調査は交通費・日当が発生します。遠方の場合は、費用と得られる成果を依頼者に説明したうえで判断を仰ぐ べきです。「行けば必ず会える」ものではないことも、あらかじめお伝えしておきます。

日帰りを前提に組む

宿泊を重ねての張り込みは、費用面でも現実的ではありません。夕方の訪問 → 1〜2時間空けて再訪 → 不在なら郵便受けに書面、という型で1日を組み立てます。

必ず複数人で行く

訪問先でどのような対応を受けるかは予測できません。単独訪問は避ける のが安全です。私たちも2人組で伺いました。

不在時の書面には何を書くか

訪問した事実、こちらの氏名・資格・登録先・連絡先、そして 「何のための連絡か」を疑われない書き方 で。相手は詐欺を警戒しています。

照会されることを前提にする

相手が司法書士会や警察に照会するのは、むしろ望ましいことです。登録情報・事務所情報を公開しておくこと自体が、実務上の武器になります

非弁行為の線引きは変わりません

訪問して直接お会いする場面でも、私たちができるのは事情の説明と選択肢のご案内までです。依頼者の利益のために相続放棄をすすめれば、弁護士法72条が禁じる非弁行為にあたります。詳しくは → (1)-3 の該当章

対面はどうしても情が動きます。中立を保つ意識は、手紙のとき以上に必要 だと感じています。

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7. 所在が分からないときの 4 ステップ

1 戸籍の附票で現住所を調べる

相続人を確定したうえで、戸籍の附票 などから現在の住所をたどります。→ 戸籍の集め方

2 手紙で連絡し、反応がなければもう一度送る

事情と選択肢を伝えます。一度で諦めません。送った記録を残します。

3 住所地を訪ねる

夕方ごろに伺い、留守なら時間を空けて再訪 します。会えなければ、訪問した旨と連絡先を書いた書面を郵便受けに残します。安全のため複数人で伺います。

4 それでも所在が分からなければ家庭裁判所の手続きを検討する

不在者財産管理人の選任 などを検討します。要件の判断が難しいため、司法書士へご相談ください。

あわせて読みたい

連絡がついたあと、手続きを進めるための記事です。

所在が分からない相続人 — よくあるご質問

Q.相続人の所在が分からないときはどうすればいいですか? +

まず戸籍の附票などで住民票上の住所を調べ、手紙を送ります。反応がなければ再度連絡し、それでも取れない場合は住所地を訪ねます。それでも所在が判明しない場合は、家庭裁判所への申立てを検討します。

Q.相続人の家を訪ねてもいいのですか? +

連絡を尽くす手段のひとつとして行われています。ただし節度が必要で、強引な訪問を繰り返すことは適切ではありません。

Q.訪ねても留守だった場合はどうしますか? +

時間を空けて再訪し、それでも会えなければ訪問した旨と連絡先を書いた書面を郵便受けに残します。

Q.遠方の相続人でも訪問するのですか? +

距離によります。交通費や日当が発生するため、費用と成果を依頼者にご説明したうえで判断します。日帰りできる範囲かどうかが目安になります。

Q.「あなたは相続人です」という手紙が届きました。詐欺でしょうか? +

まず差出人の資格と登録を確かめてください。司法書士であれば各都道府県の司法書士会に登録があります。手紙に書かれた番号ではなく、自分で調べた番号に連絡するのが安全です。

Q.本物だった場合、何をすればいいですか? +

遺産分割協議に参加するか、相続放棄をするか、どちらかを選びます。放っておくと手続きが止まり、他の相続人も先に進めません。

Q.相続手続きの連絡で、お金を振り込むよう言われることはありますか? +

通常はありません。振込を求められた場合は、いったん立ち止まって専門家や警察にご相談ください。

Q.所在がまったく分からない相続人がいる場合は? +

家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるなどの方法があります。要件や手続きは事案によるため、司法書士にご相談ください。

Q.相続人を探すのに、どのくらい時間がかかりますか? +

事案によります。人数が多ければ、連絡と訪問を重ねて年単位になることもあります。

Q.司法書士は相続人と交渉してくれるのですか? +

いいえ。司法書士・行政書士は相続人の代理人にはなれません。行えるのは事情の説明と選択肢のご案内までです。交渉が必要な場合は弁護士へのご依頼をご案内します。

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この記事の監修者

柏原 昌之 (かしはら まさゆき)

司法書士。司法書士法人かしのき事務所 代表・花の丘相続遺言サポート 代表 (埼玉県さいたま市)。相続放棄・相続登記・遺言をはじめとする相続手続きを多数取り扱う。「専門家に頼む前に、自分でできるところまでやってみたい」という方を応援するため、「みんなの相関図」(運営: かしのき研究所) の監修を務める。

知らない事務所から相続の連絡が届いたら、疑って構いません。むしろ 確かめていただいたほうが、話は早く進みます。司法書士は各都道府県の司法書士会に登録されていますので、まずそこで照会してください。判断に困るときは — 無料 Zoom 相続相談 (初回 90 分) で、早めにご相談ください。

免責事項

本記事は 2026 年 8 月時点の法令・制度に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。本文中の事例は、実際の相談をもとに年代・地域・人数などの属性を変えて再構成したものです。相続放棄の期間や家庭裁判所の手続きの要否は個別の事情によって異なるため、司法書士・家庭裁判所にご確認ください。税金の取扱いは司法書士の専門外のため、税理士にご確認ください。「みんなの相関図」は家族関係の図を作成するツールであり、相続人の確定や法的な判断、交渉の代理を行うものではありません。